読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ヴィンセントが教えてくれたこと

ヴィンセントが教えてくれたこと

St. Vincent

 

ひさしぶりに予告で絶対見たいと思った作品。ニューヨークに住んでいるろくでなしのおっさんヴィンセントが、隣に引っ越してきたシングルマザーの子どものシッターをする話。12歳の息子オリヴァーが、ヴィンセントに出会って成長するという。

 

このおっさんが、「飲む」「打つ」「買う」の三拍子が揃った、完全にチャールズ・ブコウスキーだった。脚本書いた人は絶対意識していたと思う。これでモデルがブコウスキーじゃないほうがびっくりするわ。舞台は西海岸じゃなくて東海岸だったけれど。

 

特に大きな事件が起こるわけでもなく、日常を淡々と描いていたのが良かった。原題の「聖ヴィンセント」が何を意味するかは、ぜひラストシーンを見てほしい。エンド・ロールでヴィンセントがボブ・ディランの『シェルター・フロム・ザ・ストーム』をカセットで聴きながら熱唱するのも良かった。

 

ヴィンセントが教えてくれたこと

★★★★☆

 

今年偶然にもチャールズ・ブコウスキーを読んでいて良かった。”The Most Beautiful Woman in Town”と”Tales of Ordinary Madness”の2冊の短篇集。邦題は『町でいちばんの美女』『ありきたりの狂気の物語』だったかな。

 

ブコウスキーはほとんど底辺の暮らしをしていて、不器用だけど自分に正直な人間だ。現代では、正直に生きようとすると不器用に生きるしかなくなるとも言える。

 

彼は、僕がこれまでに読んだ文章の中で最も美しい3行を書いている。”A Lovely Love Affair”『すてきな情事』という短編の最後の3行だ。訳書の邦題は『かわいい恋愛事件』らしい。

 

ニューオリンズの町でいつものように文無しになった彼は、知り合いの知り合いの太った黒人女マリーの家に泊まることになった。彼女はカフェを経営していた。その日は何も起こらなかった。翌日、二日酔いで彼女を見送った。

 

どうして俺は人に信用されるんだろう、どうしてみんな俺によくしてくれるんだろうと思いをめぐらせた。台所で3本ビールを飲んだ。マリーは財布を置いていっていて、中に10ドル札が一枚入っていた。街に出て酒屋を探し、6パックのビールを三つ買った。お釣りは彼女の財布に戻した。

 

マリーが帰ってきた。彼女はお風呂に入り、夕食を作ってくれた。俺はそれをながめながらビールを飲んだ。その晩、ウイスキーを飲みながら彼女と寝た。人生でいちばん良いファックのひとつ(best fuck I ever hadとかone of the best fucks in my lifeというのは彼の口癖だ)だった。

 

翌朝起きると、彼女は仕事に行っていた。また財布に10ドル札を残して。だけど俺はそれを取らず、テレビの上に書き置きを残して家を去った。

 

マリーへ

愛してる。君はとても優しくしてくれた。でももう行かなくちゃ。なぜかはわからないけれど。俺は頭がおかしいんだ、たぶん。さようなら。

 

泣きたかった。ウイスキーの残りを飲み干した。それから冷蔵庫のビールも飲んだ。また財布の10ドル札を見たが、そこに残しておいた。ドアを閉めるとき、もう二度とここには戻ってこないことがわかった。俺はそれを閉めた。もうおしまいだ。南へ向かって歩いた。

 

俺は太陽に向かって歩いた。

74セント持っていた。

太陽は気持ちが良かった。

 

“I was facing the sun as I walked.

I had 74 cents.

The sun was alright.”

 

Charles Bukowski – A Lovely Love Affair “The Most Beautiful Woman in Town”

 

The Most Beautiful Woman in Town and Other Stories

The Most Beautiful Woman in Town and Other Stories

 

  

町でいちばんの美女 (新潮文庫)

町でいちばんの美女 (新潮文庫)