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インヒアレント・ヴァイス

インヒアレント・ヴァイス Inherent Vice

 

天才監督×天才原作×天才俳優!といういささかやり過ぎな予告はともかく、楽しみにしていた一本。トマス・ピンチョンの小説LAヴァイス(原題はインヒアレント・ヴァイス、紛らわしい)をPTAことポール・トーマス・アンダーソンが映画化した作品です。

 

ピンチョンの小説は入門編と言われている「競売ナンバー49の叫び(The Crying of Lot 49)」だけ読んだことがありました。数年前、池袋のジュンク堂をぶらぶらしていたら、文庫コーナーに平積みされていた表紙と目が合ってジャケ買いしました。あまり内容は覚えていませんが、楽しく読んだことだけは確かです。郵便(postage)と、大麻時代(potsage)という造語で言葉遊びをするセンスがすごい。

 

「インヒアレント・ヴァイス」というのは法律用語で「固有の瑕疵(かし)」という意味です。海上保険で、貨物にもともと備わっている性質のことを言うそうです。金属なら錆びるし、食べ物なら腐ります。それに対して補償はできませんということですね。原作には「LAという街を船に見立てて海上保険をかけるなら、サンアンドレアス断層は固有の瑕疵となる」みたいなことが書いてあるらしい。

 

舞台は1969年から1970年のLA。ヒッピー崩れの私立探偵ドクの元に突然元彼女のシャスタが訪ねてくる。不動産業界の大物ミッキーと不倫関係にある彼女は、ミッキーの妻とそのまた不倫相手がミッキーを精神病院に入れようとしているから助けて欲しいとドクに依頼する。彼はそれからさまざまな出来事に巻き込まれていくが…

 

笑えるシーンがたくさんありました。主人公がほぼ常に大麻・笑気ガス・コカインでラリっているので、彼の主観で進む映像も何が真実で、何がそうでないのか曖昧です。レイモンド・チャンドラーフィリップ・マーロウ!)のハードボイルド小説の形を借り、探偵ものという設定であの時代を描いたらこうなりましたという感じですね。ニール・ヤングのハーヴェスト、坂本九上を向いて歩こうSukiyaki)、サム・クックのワンダフル・ワールドなど音楽も最高でした。

 

リチャード・ニクソンが大統領になり、チャールズ・マンソンが逮捕され、ウッドストック・フェスティバルが開催された1969年。ヒッピー文化の終わりの始まりを暗示している作品でした。ビッグフットというゴリラみたいな刑事が終始いい味出していて、ラスト近く事件がすべて解決したあとにドクの家を訪ねるシーンはすごく良かった。刑事がドアを蹴破って入ってきて、マリファナを手掴みでムシャムシャ食べるというのは何とも示唆的ではないでしょうか。

 

イーグルスホテル・カリフォルニア(1976)のこの美しい一節を思い出しました。

 

それで俺はボーイ長を呼んで言った

「ワインを持ってきてくれ」

彼は言った、「そのようなスピリット("酒"と"魂"の掛詞)は1969年以来置いておりません」

 

So I called up the Captain,

"Please bring me my wine"

He said, "We haven't had that spirit here since nineteen sixty nine"

 

The Eagles – Hotel California

 

 

 

チョット、ケンイチロウ!ドーゾ、モット、ペンケーク!

★★★★★

 

LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)

LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)

 

  

競売ナンバー49の叫び (ちくま文庫)

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